仕事では、少し早めに行動することを心がけている人はたくさんいると思います。
人を待たせないことは、社会人として大切なマナーのひとつですよね。
私も、遅れるくらいなら早めに着いていたいタイプです。
ただ、ここで一度考えてみたいことがあります。
早ければ早いほど、相手にとって親切な行動なのか。
自分では「遅れて迷惑をかけないように」「早めの準備のために」と思ってした行動が、相手の段取りを崩してしまうこともあります。
今回は、実際の撮影現場でよくある出来事を紹介しながら、「時間」について考えてみます。
「早く来ること」が、いつでも気遣いになるわけではない
一般的に、小中規模のスタジオ撮影の場合、撮影スタジオの入り時間は予約時間の15分くらい前に設定されていることが多いため、スタッフや関係者は基本的に15〜20分前くらいに現場へ到着します。
私が代理店として参加している場合も、だいたいそのくらいの時間に現場に入り、カメラ機材やプロップ類の荷下ろし、搬入準備などを進めます。
もちろん、スタジオの入り時間は香盤表で関係各所に共有しているので全員が把握しています。
それでもなかには入り時間よりかなり早く現場に入る人がいます。
それはカメラマンだったり、スタイリストだったり、クライアントだったり。もちろんその人は「早く来て準備しておこう」という気遣いからの行動だと思うのですが、代理店や制作側からすると、まだスタッフが揃っていない時間に一人で搬入やセッティングを終わらせてしまうことは、必ずしもありがたいことではなかったりするんです。
本来なら、15分前に来てもらえれば、代理店や制作側が搬入をサポートしますので、「早く来てセッティングまで終わらせてくれて助かる!できる人だ!」という想いよりも、むしろ、「代理店があとから来るのは面目ない……」という気持ちです。
たとえば、普段から早めに来てしまうカメラマンがいた場合、一人で搬入やセッティングをさせてしまうことがないように、代理店側はさらに早く現場に到着しなければならなくなります。
さらには「次はもっと早く行ったほうがいいかも」と気を利かせて、さらに早く現場に入られる方もいます。
そうなると、いつの間にか、誰が一番早く現場に入るかを競争しているような状態になってしまいます。
ここで私が感じるのは、「早く来ること」そのものが問題なのではなく、問題なのは、相手が伝えた段取りよりも、自分の判断を優先してしまうことなのだと思います。
香盤表は「時間を書いた紙」ではない
香盤表に9:20 撮影開始 と書いてあれば、基本的に9:20に撮影が始まります。
香盤表に並んだ時刻だけを見ていると、とても単純に見えますが、実際は、その開始時刻を成立させるための時間がきちんと計算されてあります。
スタジオ入り、機材搬入、商品搬入、プロップ準備、作業場所の確保、クライアントの案内、撮影場所を整える、機材セッティング、撮影進行の共有や確認。
こうした一つひとつの工程を積み重ねて、滞りなく時間通りに撮影を開始できるように香盤表は組み立てられています。
だから香盤表は、単なる予定表ではなく、現場全体の時間設計図みたいなものなんです。
「この時間に集合してください」と書いてあるのは、その時間に来てもらうことで、後ろに続く工程が滞りなく進むように組まれているからです。
だから、香盤表に「8:45集合」と書かれているなら、そこには8:45である理由があります。
それより早ければ早いほど良い、というわけではありません。

実際に使っている香盤表
こちらは実際の撮影現場で使っている香盤表の一部で、撮影内容などがわからないように一部抜粋した簡単なものですが、スタジオ入りから関係者の動きを細かく時間で刻んでいるのがわかると思います。

「早く来た自分」と「助かった相手」は、同じではない
ここは、撮影現場に限らず、仕事をするときに一度考えてみたいところです。
例えば、みなさん、14時からのクライアントの会社での打ち合わせに、13時45分には行かないと思います。
「遅刻するよりはいい」と思う人もいるかもしれませんが、でも、その15分の間に、相手には相手の仕事があります。
まだ別の打ち合わせをしているかもしれない。
資料をまとめているかもしれない。
電話をしているかもしれない。
これは自分に置き換えれば簡単にイメージができますよね。
現実はギリギリまで別の仕事をしています。
これは撮影現場でも同じで、
カメラマンが早く来る。
スタイリストが早く来る。
モデルが早く来る。
クライアントが早く来る。
誰であっても、受け入れる側の準備ができていない時間に来れば、相手は予定外の対応をしなければならなくなる可能性があります。
「自分は早く来たから、誰かの役にたった」と思っていても、「まだ対応する予定ではなかったのに」と誰かに思わせてしまったら、それは少し違います。
大切なのは、自分がどれだけ頑張ったかではなく、その行動によって誰かが仕事をしやすくなったかどうかです。
「気を利かせる」の意味を、少しだけ変えてみる
先回りして準備する。
早めに行動する。
言われる前にやっておく。
仕事では、「気を利かせる」場面が本当によくあるのですが、先回りには一つ落とし穴があります。
相手の段取りを知らないまま先回りすると、ただの「自分基準の行動」になってしまうことがある。
本当に気を利かせるなら、「私はこうしたほうがいいと思う」ではなく、
「相手はどう動く予定なんだろう?」と考えることが先なのかもしれません。
例えば、制作側から「15分前に来てください」と伝えられたなら、まずはその時間に合わせる。
もっと早く到着できそうでも、早めに入っても大丈夫かの確認をする。
それだけで、自分の「気遣い」が、相手にとっても本当にありがたいものになります。

「時間厳守」は、遅刻しないことだけではない
「時間を守る」と聞くと、まず「遅刻しないこと」を思い浮かべる方は多いと思います。
もちろん遅刻しないということは基本ですが、仕事における時間の感覚は、もう少し繊細なものだと考えています。
遅刻はもちろんダメ、でも早すぎても、相手の段取りを崩してしまう。
だから私は、「時間厳守には、早すぎないことも含まれる」と考えています。
もちろん、これはすべての仕事に一律に当てはまるルールではありませんが、事前に「30分前に集合してください」と言われているなら、30分前に行くべきです。
準備に時間がかかる仕事なら、当然その時間も必要です。
大切なのは、「早ければ正解」という思い込みを捨てること。
そして、決められた時間には、決められた理由があるかもしれないと考えることです。
現場には、理由のないルールはない
新人の頃は、香盤表を見て「この時間はなんだろう」「なんでこの順番なんだろう?」と思うことがたくさんありました。
でも、現場経験を重ねると、その意味がわかってきます。
その理由が分かると、現場を「決められたとおりに動く場所」ではなく、たくさんの人が仕事をしやすいように設計された場所として見られるようになります。
現場に入る前に、確認しておきたいこと
撮影や制作の現場に入るときは、「何分前に行けばいい?」だけではなく、次のことを確認しておくと安心です。
集合時間と撮影開始時間を確認する
通常、関係者は撮影前に香盤表で詳細なタイムスケジュールを共有しますが、香盤表が簡易的なものだったり、撮影時刻しか知らされていない場合は、集合時間、搬入開始時間、撮影開始時間など、自分に必要な時間を確認しましょう。
自分に必要な準備時間を確認する
機材が多い、着替えがある、特殊な準備が必要など、自分の役割によって必要な時間は変わります。
通常より準備に時間がかかる場合は、事前に制作サイドに相談しておくのが安全です。
スタジオや会場に入れる時間を確認する
早く到着しても、スタジオや会場にまだ入れないことがあります。
「早く着いたから、先に準備しておこう」と考える前に、入室可能時間を確認しておきましょう。
予定より早く着きそうなら、一度確認する
予定よりかなり早く到着しそうな場合は、現場へ向かう前に代理店や担当者へ一度連絡してみましょう。
駐車場の場所を案内してもらえたり、スタジオ側に確認して、少し早めに入れるよう掛け合ってもらえたりすることがあります。
たった一言ですが、そのひと手間があるだけで、自分も待ち時間を持て余さずに済みますし、代理店や担当者も現場の段取りを調整しやすくなります。
「早いほうが偉い」と考えない
早く来たこと自体を評価してもらおうとするのではなく、現場全体が一番スムーズに動く時間を選ぶ。
それが、仕事としての時間の使い方だと考えます。

仕事ができる人は、早く動く人ではない
今回の出来事を振り返って、私自身も「仕事ができる人」というものを少し考え直しました。
仕事ができる人というと、「行動が早い人」や「人より先に動く人」を思い浮かべがちですが、自分が早く動いたことで、誰かが予定外の対応をしなければならないこともあります。
反対に、決められた時間に合わせて動くことで、周りの人がスムーズに仕事を進められることもあります。
だから私は、仕事ができる人は、相手が一番動きやすいタイミングで動ける人だと改めて思います。
これは、撮影現場だけの話ではなく、デザインの確認でも、クライアントとの打ち合わせでも、入稿でも、校正でも同じです。
「自分が早く終わらせる」だけではなく、「次に動く人が仕事をしやすいか」まで考えてみる。
それが、現場で本当に役立つ気遣いなのだと思います。
今回の記事のまとめ
今回の話は、「撮影30分前に来るカメラマンは迷惑」という話ではありません。
カメラマンに限らず、スタイリストでも、モデルでもクライアントでも、また、私にも同じことが言えます。
自分が良かれと思って早く動くことと、相手にとってありがたいことは、必ずしも同じではありません。
だから、現場に入るときは、
- 香盤表や共有された時間を確認する
- 撮影開始時間だけでなく、自分の集合時間を確認する
- 自分に必要な準備時間を把握する
- 「早い=気遣い」と決めつけない
- 自分ではなく、相手が動きやすいタイミングを考える
ということを意識してみてください。
そして、現場で「なぜこんなルールなんだろう?」と思うことがあったら、一度立ち止まって考えてみる。
そこにはきっと、誰かが仕事をしやすくするための理由があります。
現場には、理由のないルールはありません。
この視点を持てるようになると、香盤表も、集合時間も、現場の細かな決まりも、少し違って見えてくるはずです。
次回は香盤表制作時に大切にしていることやポイントやコツを制作の現場からお伝えします。テンプレートの配布もありますので、楽しみにしていてください!

