どこのデザイン会社でも基本的に制作データの譲渡や販売はしていないと思います。印刷物の場合、増刷や改訂などがあると都度対応して、印刷、納品していますよね。そして、ほとんどのデザイナーがお客様との制作物の修正や確認のやりとりにはPDFを使っていると思います。
でも、皆さんご存知のように、入稿前の最終確認データなどは、問題なく入稿できる状態だったりするので、ちょっとした誤解やモラルの欠如でトラブルになりがちなんです。
私も普段から、ラフの段階から入稿前の最終確認まで、PDFでお客様とやりとりをしていますが、あるとき、そのPDFを使って、お客様が直接入稿、増刷していたことがありました。めちゃくちゃショックでしたが、その時学んだ、クライアントによる「PDFデータの無断利用」を防ぐために日頃からできる対策や、もしものときの対処法をまとめてみましたので、トラブル回避のためにも、ぜひ参考にしてみてください。

確認用PDFは「入稿できる状態」だから危ない
確認用のPDFは、実際に印刷しても問題ない状態で書き出していることがほとんどですよね。
しかも今は、PDFさえあればネット印刷で誰でも安く簡単に印刷物を発注できます。
そうなると、ちょっとした認識のズレが、データの無断使用や勝手な増刷といったトラブルに発展してしまうことに繋がります。
だからこそ、確認用PDFの取り扱いには細心の注意が必要です。
しっかり伝えた上で、誤解を防ぐ工夫をしておくことがなにより大切なのです!
そもそも制作データは「譲渡しない」のが業界ルール
ほとんど全てのデザイン会社が、制作データそのものを譲渡したり販売することはありません。増刷や改訂のたびに都度対応する形が一般的ですよね。PDFのような「確認用データ」も、あくまで確認のために渡すもので、使用を許可したわけではありません。
校了前のデータや確認用のデータを改ざんしたものが店頭に並んでいた…ともなると、ブランドイメージにも関わる深刻な事態になりかねません。
それではどのようにしてトラブルを防ぐのか、すぐにでも取り入れやすい方法をご紹介していきます。
トラブルを防ぐ!事前にできる4つの対策
1. PDFにウォーターマークを入れておく
「※確認用データ」「Do Not Print」など軽く入れておくだけでも効果的です。
ファイル名にも「_確認用」などを付けておくことを忘れずに!
物理的に再利用しづらくすることで、誤用・悪用の抑止力になります。
2. メールや書面で「確認用データである」ことを明記する
メールやチャットなど、PDF送付の目的を明記したやり取りを残しておく。
「本データは確認用データとなります。印刷・配布はできません」「本データは印刷・使用不可です」など、ひとこと添えるだけでも違います。
3. 契約書や見積書に「データの使用範囲」を明記する
・デザインデータは制作会社に帰属すること
・納品は「印刷物」であり、「制作データ(Illustrator・PDFなど)は譲渡しない」旨を記載
・仮にPDF納品が必要な場合も「印刷用としての使用は不可」と明記
NDA(機密保持契約)と合わせて、必要に応じて「著作権契約」や「二次利用契約」なども含めておけばバッチリです。
4. PDFのセキュリティ設定
- Adobe Acrobat Proなどでパスワードを設定
- 印刷制限(高解像度印刷不可)
- 編集・抽出の制限
- 校正用PDFを低解像度にするという手も
実際に悪意があれば回避される可能性もありますが、「手間を増やす」だけでも抑止効果があります。
起こってしまったことへの「対処・対応」
1. 事実確認(証拠の収集)
- まず、「確認用PDFが実際に使われたかどうか」「クライアントがそれを印刷会社に渡したかどうか」を確認しましょう
- 印刷物の現物や印刷データを確認できればベスト
- 関係者からの証言、やり取り履歴なども確認
2. 穏やかにヒアリング・注意喚起
- いきなり責めず、「念のため確認ですが…」というトーンで聞くのが効果的です
- 例:「今回の印刷物、弊社の校正用PDFから印刷されたように見受けられたのですが、ご確認いただけますか?」
3. 正式な書面での意思表示
- 今後のトラブル防止のため、「制作物の取り扱いに関するお願い」というかたちで簡単な書面を提出するのも良いです
4. 繰り返される場合は契約見直し・契約終了も視野に
- 悪質で繰り返しがあれば、契約違反として取引停止や損害賠償請求も選択肢になります
- ただし、感情的にではなく、証拠と事実に基づいき冷静に対応しましょう
メールや書面で使える一文例
このたびお渡しした確認用PDFにつきましては、印刷・二次利用を想定したものではございません。今後のやり取りにおいても、確認用データの取り扱いにはご注意いただけますよう、お願い申し上げます。
補足アドバイス
一度このようなことがあると、「他のクライアントでも起こりうること」として社内で運用ルール化をおすすめします!
特にPDF納品は便利な反面、誤用や無断使用のリスクも高いため、「納品データ=成果物」なのか、「PDF=確認用」なのかの線引をはっきりさせることが大切です。
今回の記事のまとめ
すべてのクライアントが悪意を持っているわけではないと思いますが、ルールを伝えなければ、「使ってOK」と誤解されることもあります。
デザイナーとして自分の作品や時間を守るためにも、最初からルールを明確に伝えることがとても大切です。PDFデータの扱いについても、事前のひと工夫で防げるトラブルはたくさんありますので、今後も紹介していきたいと思っています。お楽しみに!
